梅雨になって高湿度の日が続いている。私の体感では,私の楽器は湿度が50%未満の方が音がよい。
高湿度による影響については,もっとも人口に膾炙しているのは,弓の毛が伸びるという話だろう。私はこの話についてはネガティブだ。誇張されすぎていると思う。
そう思うので調べてみた。
ヴァイオリンの弓の毛が馬毛であることはよく知られている。なぜ馬毛なのか,他の毛ではだめなのか,というのは興味のある話で,実験した人はたくさんいるのだろうが,まだ調べていない。
ところで,馬毛の主成分はケラチン(角質)だという。ケラチンは水分に対して強い。紙のように水分を吸い込まない。むしろはじく。人の髪と同じだ。水を吸い込むので,ミスト・サウナに入ったら,髪がベタベタになってしまった,とはならない。
ただ,完全に大気中の水分を吸わないのかというとそれは違うようだ。日本の気象庁も論文を発表しているように(https://www.jma.go.jp/jma/jma-eng/jma-center/ric/Our%20activities/International/CP3-Humidity.pdf),毛を使って湿度を測る装置もある。その装置にはかつては馬毛がよく使われていたらしい。
髪もミクロの目で見ると穴があって,中に隙間があるので,そこに水分が吸収され,それで伸びるらしい。
馬毛の湿度による長さの変化率を軽く検索したが,数値を得られなかった。上の気象庁の論文によると,人の毛は,2%程度伸びる。(湿度0%と100%の比較だと思う。)馬毛も同じ程度だという検索結果もある。
ヴァイオリン弓に張られている毛の長さは,73cm程度だ。変化率を2%に設定すると1.46cmだ。これは最大値なので,ここまでは伸びない。であれば,弓のスクリューをを1まき,2まきすれば済む程度の伸びだろう。
乾燥した日には,私の家でも,室内の湿度が30%程度になる。湿度が高い日は70%程度だ。私は50%程度だと快適に感じる。毛替えの日の湿度と普段の湿度と,乾燥している日の湿度と,じめじめした日の湿度との湿度の差は,2%もの伸び縮みするほど大きくはない。
もっとも毛替えの時には,毛は一度,水の中を通される。櫛の通りをよくするためだろう。100%の湿度を潜り抜ける。
な。多湿で毛が伸びてしまうことを考えるよりも,乾燥して毛が縮んでしまうことを考えた方がいいかもしれない。
いずれにせよ,湿気で毛が伸びるので,梅雨になったら毛替えをするのがいい説を私は支持しない。
もっとも毛が伸びていると感じたら,毛替えをした方がいい。梅雨であろうとなかろうと。それは私の解釈では,毛を弓に固定するのに使われている「ほぞ」の効きが甘くなってきていることを示している可能性があるからだ。(投稿直後の追記)